バーチャル・ドラマの時間 ~”If Vtuber”と”夕餉前”~

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 家庭で家族が集まって、膝を寄せ合って会話をしている、何気ない日常を切り抜いたドラマ。

 VRChat上で制作、生放送される番組「VTV」内で放映された「If Vtuber」は、出演者であるVtuberの人々が発想を存分に発揮し、画面の前の多くの人々を楽しませました。

 ちょっとVtuber関連の作業に休みを取っていた筆者も途中からではありますが視聴し、その(超)展開にめちゃくちゃ笑いましたが、それと同時にふと思うことがあったのです。

 これは、どこかで見たことがある、と。

 既視感の源には、あるドラマ番組が存在したのでした。そう、「もう一つのIf Vtuber」とでもいえるような………。

 

テレビドラマ第1号「夕餉前」

 それが放送されたのは1940年。実に78年前のNHK

 おそらく今からしたら信じられないくらい不鮮明な白黒映像が、放送技術研究所から今のNHK放送博物館に設置されていたテレビ受像所へと送信されました。

 狭い実験スタジオの中にタンスや壁板などが並べられ、煮えているすき焼きを囲んで母とその息子、娘が談話するというドラマ、「夕餉前」。これが、日本で一番最初のテレビドラマです。

 感度が低いテレビカメラにはっきりと役者を映すため、10万ルクスもの光が焚かれたセット。衣服や髪が燃え、卓上のすき焼きが勝手に煮えだすような強烈な熱が発生する中、まだ画面の切り替えもぎこちない状態で………

 ドラマについて、残っている資料はわずかです。15分間ぶんの台本と、関係者の証言、実験の様子をとらえた記録映像くらいでした(それというのも放送する映像が記録できなかったのです)が、少なくともこの短編が当時の人々の関心を強く引いたことは確か。

 それまでメディアといえば新聞やラジオくらいしかなかった時代ですから、四角い画面の中で人が会話し、ささやかな物語が紡がれていく様子は、新しい時代がブラウン管の向こうから歩いてきていると、戦前の人々に強く感じさせたに違いない。

 その後も放送実験は熱心に続けられますが、やがて戦争が起き、全面的に取りやめになってしまいます。しかしながら、この時テレビドラマを作り、またドラマに触れた人々が、戦後のテレビ放送を創っていくことになるのでした。

 

バーチャル・ドラマの時間

  さて、ここで視線を平成末期に戻しましょう。If Vtuberもまた、はじめての試みでした。今度は日本初だけでなく世界初です。VRCas上で演技され、撮影され、Youtubeへと生放送されるドラマ「VRドラマ」の第一号が、まさにこの作品です。

 「夕餉前」が技術/ノウハウの未成熟によって、まだまだ完璧には程遠いものだったように、If Vtuberもまた途中で大変なことになったりしていました。まさかあんな設定だとは思わなかった。しかし(?)筆者はVRドラマというコンテンツに大きな可能性を感じます。

 ブラウン管の中の人々が手探りし、液晶の人々が育て、今や多様に発達を遂げたテレビドラマ。

 その起源をはるか後方に望みながら育つVRドラマとVTVの未来が、豊かで幸多きものとなるように、電脳空間の片隅から祈っています。(おわり)


参考: 

第1回VTV

https://youtu.be/TpkGcDFtTWk


テレビ放送技術史を俯瞰できるNHKのサイト

https://www.nhk.or.jp/strl/aboutstrl/evolution-of-tv/index.html